話は変わるが、日本人はすぐ謝る。外人は決して謝らない国が多い。謝ったら負けだという考えの国が世界には圧倒的に多い。ここでもよく外人に、「なぜ日本人はすぐ謝るのか?」と訊かれることが多かった。アニキはいつもこう答えていた。日本人が謝るのは、その問題で自分が間違っていたからではない。まず、相手に不快感を与えたことに対し詫びているのだと。そう、日本人は悪かったから謝るのではなく、気分を害したことに対して、申し訳ないと思っているのだ。このことをよく、中国人の部下達に教え込んだが、あまり理解してもらえなかった。
では、この「すぐ謝る」という日本人気質はどこから生まれたのか。実は、これは江戸時代の名残である。武士が一番偉かった当時、武士は「切り捨て御免」という特権を与えられていた。これはご存知の通り、武士のプライドを汚したら、その武士はプライドを汚した者を即座に切ってもいいというルールだ。プライドを汚したかどうかは、公正な機関で決定されるのではなく、その武士個人の意思で決まるから、理不尽極まりない。庶民は、武士の機嫌が悪いだけで切られてしまったのだ。だから、庶民はすぐに謝るくせがついてしまった。武士の機嫌を損ねないようにと。それと一緒に、薄ら笑いも身についた。嫌われない技能のひとつだが、うわべだけのつきあいが得意なのもここに起因する。日本の会社に、上司の機嫌を取るのがうまい人間が多いのも、ここに起因する。
この薄ら笑いだが、よく日本人は何考えているのかわからないと批判され、気味が悪いと誤解される。日本人は、相手の機嫌がよくわからないときにも、自然と薄ら笑いが出てしまう。実は、ただ表現が下手なだけだ。恐怖におののいている時でも笑顔を出さねばならなかった時代の知恵だったのだから。相手の眼を見て話せない習慣も、この時代の産物だ。でもこれらは、弱者が生き抜く術だから、悪いとは言い切れない。アメリカなど常に強者の歴史を重ねてきた国民には、日本人のこの対応はなかなか理解できないだろう。国が歩んできた歴史が、価値観を作り上げる。そしてその価値観が考え方を形成し、その国民の性格を作り上げ、未来へ継承してゆく。アメリカは強者を崇拝していた国であり、強いことが最上概念で価値観だ。この国でヒーローがもてはやされる所以はここにある。アメリカと日本では、その国民の考え方や価値観が根底から違うのだ。他国をどうこう言うつもりはない。アメリカには「愛の重視」や「奉仕の精神」というすばらしいものがある。各国いいところがあるのだから、各国が自国のすばらしい部分を押し出してゆけばよいだけである。
アニキが言いたいのは、日本人は弱者という立場から「相手を思いやる心」というすばらしいものを身につけた。日本人であるなら、これを全面に押し出してゆけばよいのである。日本人には、強さを押し出すことは似合わないし、強さは現代ではすでに価値のない概念であることを理解しなければならない。
日本人の特質である「思いやりの精神」、これについては明日詳しく説明する。