そんなクズ野郎なアピーラーであるが、人は誰でもアピーラーになり得る要素がある。昔を思い出してほしい。諸君は就職の時、就職面接で嘘八百を並べ立て、面接をクリアしてきたではないか。懐かしい人生の一幕だっただろう。雀の涙ほどの小さな実力を、これぞとばかりに大きく見せてきたことは記憶にあるはずだ。そのテクニックこそが、アピーラーの技能のひとつであり、その片鱗は誰でも持っている。事情の知らない相手に対しては何でもありという自然法則がある。要は、「ウソそつき」である。ウソで塗り固めて武装する。これがまず、諸君がサラリーマンとして最初にやったことだ。もしかすると、相手の面接官も君らのウソのうまさを見ていたのかもしれない。この神妙な面接の場でそこまで平然とウソをつくかと、しらっとウソ嘘つくことができるクソやろうだが、その度胸と演技力を見て「こいつはつかえる」と面接管は考えるのかもしれない。なぜなら、サラリーマンにとってはウソつくことが最大の仕事であるからだ。ウソつき人生と言っても過言ではない。さて、面接をうまく切り抜けると、晴れてサラリーマンの一員となるのだが、部署に配属されると、上司や先輩は「ウソはダメだ、真実を伝えろ。ハートtoハートだ!」と声高々に指導するのだが、彼らの背中を見ると、日頃やってることは嘘八百だらけだ。その姿に、「な~んだ、指導自体がウソじゃないか」と新人は身を持って理解するわけだ。上司と飲んだ席で、「なんでウソなんかつくんですか?」と真面目に質問しても、上司はただ、「お前はまだ青いな。それが会社勤めってものだよ。」と、理屈にならない回答しか返ってこない。
そう、社会においては、正論だけで物事は進まない。仕事をうまく前に進めようとすると、正しい真実は邪魔なことが多い。で、ウソをつくことになるのだが、下手なウソは相手に見破られるから、またそれを別のウソで塗り固めてゆく。ウソをウソでうわ塗りするので、エビデンスも改ざんすることになり、何が真実かわらなくなってゆく。そんなウソの毎日を何年も過ごしてゆくから、条件反射的にウソが口から出るように成長する。仕事で少しでも追い詰められると、ウソが自然と口からでてしまう。息するようにウソが出る。そこまでウソが磨かれてゆく。どんなダメ社員であっても、ウソつく技能は世の全サラリーマンが全員漏れなく成長する技能だ。
しかし、上塗りされ続けたウソには必ず限界がある。そして、そのウソが身を滅ぼすことになる。取引先相手に被害が及び、もうこれ以上ウソつくことが不可能となると、いよいよ上司にまでそのウソの影響が及ぶ。上司はウソもここまでかと観念して、担当者を変えてリセットする。担当者が勝手にウソをついていたのではなく、上司がウソを指示していた場合でも、その上司は平然と、「前任者がウソついてましたので、新たな担当者に変えました。こんどの担当者は正直者なのでもう安心です。」と、ここでも大ウソをつくわけだ。まさに、企業の人事ローターションとは、定期的にウソのリセットが大きな目的でもある。
そう、ウソつきは日常の仕事に欠かせない業務行為であり、毎日毎日朝から晩まで何年も取引先や社内にウソをつき続けるわけだから、自然とウソの技術が磨かれてゆく。繰り返すが、サラリーマンは自然とウソの技能が高まってしまうことになる。よって、アピーラーは、高まったウソという技能を、自分の出世やポジション安定、又は評価を上げるために用いているだけとも言える。