この現象はどの企業でも起こっている。大企業になれば、部長クラスでの話でなく、本部長、役員クラスでこれが起こる。大企業では、大概部長までは実力で昇進する。部長までは熾烈な競争がつきまとうので、アピーラーだけでは到底部長になれない。大企業では、「アピーラー+実力」が必要だ。というより、実力競争を少しでも緩和するためのアピーラー作戦と言ってもいいだろう。だから、サラリーマンの暗黒面アピーラーは役員になってから発揮される。
どこの会社でもそうだ、役員は実力で成るわけではない。役員はトップの好き嫌いで成る役職だ。役員が雲の上の役職だから、一般的にはあまり理解されていないが、役員に近い部長クラスはみんな知っている。だれに気に入られる必要があるかを。また、部長クラスから役員への昇進はまだ序の口で、役員同士で上に上がるにはさらに熾烈な足の引っ張りあいだ。仕事は多大な部下達が業績を作ってくれるから、役員の仕事は自分の管轄へのかけ声とトップへのアピールしかない。だから、どの企業も「おまえは誰の派閥だ?」という話になる。誰の弟子になる?誰の派閥に入る?おひいきになるためにどう取り入るか?これが最も大事な仕事であり、自分の管轄の業績コントロールどころじゃない。そんなものは部下に任せておけ!だ。役員は皆、今後常務になれるか、出向させられるかの問題で頭がいっぱいだ。そこで、部下から上がってきた報告の中からアピールできる内容を探して、社内競争のプラス点とするわけだ。また、ライバルは間違いなく実力者のため、自分が出世競争で選ばれるためには相手の足を引っ張るしかない。そう、大企業の部長クラスや役員は皆でこれをやっている。お互い足の引っ張りあいだ。常にライバルのミスを探して、見つけたらそれをすかさず攻撃する。自分のミスは極力隠す。ここまでくると、正直さは武器にはならない。フェアな考えなんかは相手につけ込まれる恰好のエサになるだけだ。
そう、サラリーマンの最終競争は悲しいかなアピーラーの競争なのだ。今まで自分の中に眠っていたアピーラー技能がここで開花される。ウソの技能も情報収集もストーリー作りも演技力もすべてここで試される。そう、最大のアピーラー技能を備えて役員の座を勝ち取った者が正義である。そして、役員になったら、そこでも常務、専務、副社長、社長とアピーラーの戦いは熾烈となる。そこはすでに自分ひとりでの戦いでなく、チームで足を引っ張る戦いが繰り広げられる超汚い世界である。数千万円の給料をもらい、ベンツに乗って一等地に住み、2号さんもいるような勝ち組連中も、敷石を剥がせば更なる高みを目指して醜い争いを今日も繰り広げている。
勝者が正しい世界でない。これが皆が憧れるポジションのサラリーマンの最終決戦であり、人生においての聖戦なのである。アピーラーとは、全サラリーマンの最高権力者達が駆使する能力なのだ。