前回言い忘れたので付け加えておきたい話がある。実は、オーナーにも2種類存在する。創業オーナーと2代目以降の引き継ぎオーナーだ。第1話で話したお坊ちゃんオーナーは、2代目以降引き継ぎオーナーに分類される。引き継ぎオーナーは、父親社長が健在でその下で修行をするから、甘やかされる環境でなければそんなに変な生き物としての性質は出てこない。変な生き物の性質が出てくるとすると、そのお坊ちゃんがオーナーを引き継いだときだろう。自分が実権を握ると、突然オーナー風を吹かすため、それについて行けなくなった先代の側近が次ぎ次ぎに辞めてゆくという事態となるから、何が起こったのかわかりやすいものだ。
それよりも問題なのは、創業オーナーだ。創業オーナーこそが生き物として特殊な性質を持つ。わがままの極地を行くオーナーとは、まさにこの創業者だ。企業は、必ず創業者オーナーからスタートする。サラリーマンが性に合わないために、会社を飛び出した人間が会社を興すバイタリティは評価できるが、自分に意見する人間が嫌いなその性格は、いろいろと弊害を生む。まさに、オーナー社長の中の「珍獣」といえる。
創業オーナーは親分肌で、番頭なんかに任せずに自分で会社を引っ張っていきたいはずだが、問題も多い。なんかの本で読んだのだろうが、時代の流れに敏感に反応しなければならないというポリシーを持っている人が多く、朝令暮改を正当化している。柔軟な対応が必要であることと、朝令暮改は意味が違う。方法論での朝令暮改はいいのだが、信念すらも変えてしまうから、従業員がついてこない。信念がブレることも朝令暮改と思っている。そのことを指摘する番頭クラスの意見は、「口答え」とか「評論」だと言って耳を貸そうとしない。
例えば、高尾山を登山すると決めたのに、突然富士山へ変更するようなものだ。朝令暮改により、高尾山の登山ルートを変更するのはありだ。しかし、山を変えるのは朝令暮改では済まされない。なぜなら、富士山の標高と高尾山の標高では、その装備や準備が全く違うからだ。富士山なら登山する季節も選ばなくてはならないし、それなりに訓練も要る。簡単に変えていいものではない。これが、にわか経営者であるオーナーが陥るミスである。山を変えるのは、理念や信念を変えることに等しい。
理念や信念は、会社で言えば判断基準だ。絶対変えてはいけないし、ブレてもいけない。企業や社長の理念・信念により、従業員はそこで働いているわけで、それが変われば成り立たない。朝令暮改によるルート変更ですら、信念や理念に照らし合わせて問題ないかどうか見極めた上で決定するのが当たり前である。
こんなことを平気でやるオーナー社長は、別の生き物であるだけでなく、まさに「珍獣」なのだ。