「まずい土産」をあげることに及び腰な諸君に、アニキの成功例をここに一つ紹介しよう。アニキが昔タイへ出張に行った時の話だ。その時、お土産に「ドリアンキャンディー」を買った。いかにもまずそうだろう。街中のスーパーでいろいろ探していたら、これが目についた。「これはかなりまずそうだ」と、自信を持って買って帰ったのだ。案の定、不評の嵐だ。口にした者みんなが、「最後まで舐められない!」と弱音を吐いていた。アニキは、「人がせっかく買ったお土産を粗末にするなんて、最低の人間ですよね」なんて、なじったものだ。
で、最も面白かったのが、我が部所の部長だ。ひとりずつ配った後に余ったアメは、当時、アメ缶と名付けられた缶に入れておいて、誰でも好きなときに食べてもいいようにしてあった。すると、たまたま部長が通りかかり、その缶を開け、なにげなしにドリアンキャンディーをポンと口に入れた。あまりにものまずさに、その瞬間ゴミ箱まで突然走り出し、ゴミ箱に吐き出した。勢いよく口に入れた反動と走っていたこともあり、ゴミ箱に吐いたというよりは、むしろゴミ箱へ向かって唾液と共に一気に吐き飛ばしたといった方がよいだろうか。机の横のゴミ箱に覆い被さるように屈み込み、しばらくそのままの状態で動きが止まり、肩で息をしていた。本人も何が起こったのかわからなかったのだろう。体内にいきなり侵入してきた異物、「これは食べるものではない!」と体が反射的に拒絶した、言わば無条件反射である。その後部長は気を取り直すまでしばらく時間がかかった。アニキもその様子を遠くから見ていたが、ここまでのインパクトがあるとは、正直思わなかった。しかし、この事件は末永く語られることになり、飲み会の席では必ず話題に上がり、部長も「あれはまずかった!」とご機嫌であった。
これは土産の極意であるが、ここで重要なのは、相手にはインパクトを与えられることだ。何でもそうだ、日常にインパクトを与えることを常に意識する必要があると言いたい。それと、効果を狙うためにはギャップを利用すること。(ギャップの話は、これだけで長文になってしまうので、また今後改めてさせてもらう)例えば、このまずい土産をお笑い芸人がやってもインパクトはない。想定できるからだ。常にウケを狙っている人がやってもつまらない。ウケを狙えないお堅いサラリーマンがやるから面白いのだ。そんなことも、人生学んでもらいたい。
その後、他の同僚も同じことをやるものだから、出張土産そのものが会社で禁止となってしまったので残念だった。しかし、これは部長にもいい経験になったようだ。それからいうもの、部長はアメ缶からアメを取り出す時、必ずにおいをかいでから口に入れるという習慣に変わった。